外来で、患者さんから次のような質問を受けることがあります。
「私の自己免疫疾患は、子どもに遺伝するのでしょうか」
特に全身性エリテマトーデス(SLE)は、妊娠や出産を考える年代の女性に発症することが少なくありません。そのため、将来のお子さんへの影響を心配されるのは、とても自然なことです。
結論から言うと、SLEを含む多くの自己免疫疾患は、単純に親から子へそのまま遺伝する病気ではありません。
ただし、体質として「自己免疫疾患になりやすい傾向」が家族内で共有されることはあります。
自己免疫疾患は「多遺伝子疾患」と考えられています
現在、多くの自己免疫疾患は「多遺伝子疾患」と考えられています。
これは、ひとつの遺伝子だけで病気が決まるのではなく、複数の遺伝的な要素が少しずつ関係するという意味です。
さらに、遺伝的な要素だけで発症が決まるわけではありません。
発症には、以下のような環境因子も関わると考えられています。
- 喫煙
- ウイルス感染
- 紫外線
- 一部の薬剤
- ホルモンの影響
- ストレス
- その他の生活環境
つまり、自己免疫疾患は「遺伝だけで決まる病気」ではなく、遺伝的ななりやすさに環境要因が重なって発症すると考えられています。
家族に同じ病気があると、リスクは上がります
自己免疫疾患の中には、家族内で発症がみられるものがあります。
そのため、患者さんのご家族では、一般の方と比べて同じ病気を発症しやすくなることがあります。
この「発症しやすさ」は、兄弟姉妹でどのくらい病気が起こりやすいかを調べた研究などで評価されます。
ただし、ここで大切なのは、発症しやすさが何倍になっても、もとの病気の頻度が低ければ、実際に発症する確率はそれほど高くならない場合があるという点です。
たとえばSLEではどう考えるか
SLEは、一般人口での頻度が高い病気ではありません。
仮に一般人口での頻度を約0.1%、兄弟姉妹での発症しやすさを約20倍として考えると、兄弟姉妹がSLEを発症する確率は単純計算で約2%となります。
親子間の発症率は、兄弟姉妹と同程度、またはやや低いと考えられることがあります。
そのため、患者さんに説明する際には、
「お子さんがSLEを発症する可能性はゼロではありませんが、多くの場合は発症しません。目安としては数%程度と考えられます」
という伝え方が現実的です。
ただし、この数字は人種、家系、研究方法、診断基準によって幅があります。個々の患者さんやお子さんの将来を正確に予測する数字ではありません。
自己免疫疾患ごとの目安
自己免疫疾患ごとに、一般人口での頻度と家族内での発症しやすさは異なります。
以下は、報告されている兄弟姉妹での発症しやすさと一般人口での頻度をもとにした、非常に大まかな目安です。
| 疾患 | 一般人口での頻度の目安 | 兄弟姉妹での発症しやすさ | 兄弟姉妹での発症確率の概算 |
|---|---|---|---|
| 乾癬 | 2.8% | 約6倍 | 約17% |
| 関節リウマチ | 1.0% | 約8倍 | 約8% |
| バセドウ病 | 0.5% | 約15倍 | 約7.5% |
| 1型糖尿病 | 0.4% | 約15倍 | 約6% |
| 強直性脊椎炎 | 0.13% | 約54倍 | 約7% |
| 多発性硬化症 | 0.1% | 約20倍 | 約2% |
| 潰瘍性大腸炎 | 0.1% | 約12倍 | 約1.2% |
| SLE | 0.1% | 約20倍 | 約2% |
| クローン病 | 0.06% | 約20倍 | 約1.2% |
| 原発性胆汁性胆管炎 | 0.008% | 約100倍 | 約0.8% |
この表は、患者さんにリスクの大きさをイメージしていただくための概算です。
「何倍」という数字だけを見ると不安が大きくなりますが、実際の発症確率は、もともとの病気の頻度と合わせて考える必要があります。
SLEと妊娠では「遺伝」と別に確認したいことがあります
SLEの患者さんが妊娠を考える場合、遺伝の問題とは別に、病気の活動性や内服薬の調整が大切です。
また、抗SSA/Ro抗体や抗SSB/La抗体が陽性の場合、新生児ループスや先天性房室ブロックに関連することがあります。
これは、SLEそのものが赤ちゃんに遺伝するという話とは別の問題です。
妊娠を希望される場合は、病気が落ち着いている時期に、主治医と相談しながら計画することが大切です。
患者さんにお伝えしたいこと
自己免疫疾患は、家族内で発症しやすさが少し高まることがあります。
しかし、多くの場合、親の病気がそのまま子どもに遺伝して発症するわけではありません。
SLEについても、お子さんが将来SLEを発症する可能性はゼロではありませんが、発症しない可能性の方がずっと高いと考えられます。
大切なのは、必要以上に不安を抱え込まず、妊娠や出産、育児について主治医と相談しながら準備することです。
豊川医院では、リウマチ・膠原病に関する不安や、妊娠を考える時期のご相談にも対応しています。気になることがあれば、診察時に遠慮なくご相談ください。