「最近、物忘れが増えた気がする」

「同じことを何度も聞いてしまう」

「家族から、少し様子が変わったと言われた」

このような相談を受けることがあります。

物忘れがあるからといって、すぐに認知症と決まるわけではありません。加齢、睡眠不足、ストレス、うつ状態、薬の影響、甲状腺機能異常、ビタミン不足、脳血管障害など、さまざまな原因で物忘れのような症状が出ることがあります。

一方で、認知症やその前段階であるMCIが隠れていることもあります。

MCIとは、軽度認知障害のことです。英語の Mild Cognitive Impairment の略で、認知症そのものではありませんが、認知機能が年齢相応より低下している状態を指します。

MCIでは、物忘れなどの自覚や家族からの指摘があっても、日常生活はおおむね自立していることが多くあります。そのため、「年のせい」「まだ生活できているから大丈夫」と見過ごされやすい段階です。

しかし、早く気づくことには大きな意味があります。

物忘れ、MCI、早期認知症の段階と早めの相談の大切さを示す医療向けイラスト

早期に評価を受けることで、治療できる別の病気がないかを確認できます。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症、睡眠、運動不足、難聴、飲酒、喫煙など、認知機能に影響する可能性のある要因を見直すきっかけになります。

さらに近年は、アルツハイマー病に対する新しい治療薬が登場しています。

レカネマブ、ドナネマブなどの抗アミロイドβ抗体薬は、脳内にたまるアミロイドβに働きかける点滴治療薬です。日本では、アルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症の進行抑制を目的とした薬として位置づけられています。

ただし、これらの薬は「物忘れがある人なら誰でも使える薬」ではありません。

対象となるのは、アルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症と診断され、アミロイドPET検査や脳脊髄液検査などでアミロイドβの蓄積が確認された方です。投与にあたっては、MRIなどによる評価、副作用の確認、専門的な診療体制が必要です。

また、治療の目的は認知症を完全に治すことではなく、進行をゆるやかにすることです。アミロイド関連画像異常と呼ばれる脳のむくみや微小出血など、注意すべき副作用もあるため、適応を慎重に判断する必要があります。

だからこそ、早い段階で相談することが重要です。

症状がかなり進んでからでは、新しい治療薬の対象にならないことがあります。反対に、MCIや軽度の段階で気づくことができれば、生活習慣の見直し、併存疾患の管理、必要に応じた専門検査、治療選択肢の検討につなげることができます。

次のような変化がある場合は、早めの相談をおすすめします。

  1. 同じ質問や同じ話を繰り返すことが増えた
  2. 約束や予定を忘れることが増えた
  3. 財布、鍵、薬などを探すことが多くなった
  4. 慣れているはずの手続きや家事に時間がかかる
  5. 日付や曜日を間違えることが増えた
  6. 料理、買い物、服薬管理、金銭管理に不安が出てきた
  7. 以前より意欲が低下した、怒りっぽくなった、性格が変わったように見える
  8. 家族や周囲が「以前と違う」と感じている

受診の際は、本人だけでなく、ご家族から見た変化も大切な情報になります。

「いつ頃から変化があるか」

「生活の中で困っていることは何か」

「薬の飲み忘れや金銭管理の問題があるか」

「運転、火の消し忘れ、外出時の迷いがあるか」

このような点をメモしておくと、診察で状況を整理しやすくなります。

物忘れは、相談しづらい症状かもしれません。

しかし、早期に相談することは、本人を責めるためではありません。これからの生活を守り、治療や支援の選択肢を広げるための大切な一歩です。

豊川医院では、物忘れが気になる方、MCIや認知症が心配な方のご相談にも対応しています。

必要に応じて、認知機能の確認、血液検査、生活習慣病の管理、画像検査や専門医療機関への紹介などを検討します。

「年のせいかもしれない」と思っていても、気になる変化があれば早めにご相談ください。